FactorISM 2026 参加レポート第四部:川口に活かすには

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はじめに
2日間で見聞きしたことを、地元の川口にどう持ち帰るか。八尾へ向かう道中に整理した数字と、現地で考えたことをもとに、今の考えをまとめます。結論ではなく、これから確かめていく仮説です。
数字で見る、川口と八尾
川口と八尾は、どちらも製造業の事業所が1,000を超える「町工場のまち」です。違いが出るのは、稼ぐ力と、まちを取り巻く条件です。
| 指標 | 八尾市 | 川口市 |
|---|---|---|
| 製造業の事業所数(2023年) | 1,273 | 1,704 |
| 従業者数(2023年) | 27,429人 | 22,319人 |
| 1事業所あたり従業者 | 約21.5人 | 約13.1人 |
| 製造品出荷額等(2022年) | 9,286億円 | 5,478億円 |
| 1事業所あたり出荷額 | 約7.3億円 | 約3.2億円 |
| 人口(2025年) | 約26万人 | 約61万人 |
| 最低賃金(2026年度) | 1,231円(大阪府) | 1,196円(埼玉県) |
| 隣の大都市の最低賃金 | 1,231円(大阪市・同じ府内) | 1,280円(東京都) |
事業所の数は川口のほうが多いのに、出荷額は八尾が約1.7倍。1事業所あたりで見ると、その差は2倍を超えます。一方で、人口は川口が2倍以上。そして、川をひとつ越えた先の最低賃金が、八尾は同じで、川口は高い。この3つが、川口で考えるときの出発点になると思っています。
川一本の差:賃金では勝負しにくい
川口は東京のベッドタウンで、荒川を渡ればもう東京です。同じ時間働いても、川向こうに行けば最低賃金だけで1時間あたり84円の差がある。パートやアルバイトを考える人にとって、この差は小さくありません。
八尾の隣は大阪市ですが、同じ大阪府なので最低賃金は変わりません。賃金で人を取り合う圧力の構図が、そもそも違うのです。
だからこそ川口は、時給の高さで東京と張り合うのではなく、仕事の中身で勝負する必要があると考えています。この仕事は何をしているのか、どこが面白いのか。「なんだか面白そう」と思ってもらえる仕掛けを、意識してつくっていくことが欠かせません。
見てもらう、知ってもらう、持って帰ってもらう
FactorISMで繰り返し聞いたのは、「知られない仕事は、憧れられない」という言葉でした。川口でも、住宅のすぐ隣に工場があるのに、中で何をつくっているのかを近所の人が知らない、ということは珍しくありません。
最初の一歩は、大きなイベントでなくてもよいはずです。
- 見てもらう:工場の前を通る人に、何をつくっているのかが伝わる工夫。窓や外壁、店先のような小さな展示
- 知ってもらう:年に一度の公開日や、Googleマップ・SNSで、仕事の様子が見つかるようにしておくこと
- 持って帰ってもらう:社名やロゴの入ったTシャツ、端材でつくったキーホルダーなど、家に帰ってからも会社のことを思い出せるもの
特に3つ目は、八尾の会場で社名入りの提灯がずらりと並ぶのを見ていて感じたことです。手元に残るものがあると、その会社は「近所の工場」から「知っている会社」に変わります。子どもが持ち帰ったキーホルダーが、家族の会話のきっかけになることもあるでしょう。
武器は人口:潜在的な働き手がすぐそばにいる
賃金では不利な一方で、川口には八尾にない強みがあります。人口です。八尾の2倍以上、約61万人が暮らしている。工場のすぐ周りに、まだ製造業と接点のない「潜在的な働き手」がたくさんいるということです。
もちろん、技術を身につけるのに何年もかかる専門職を、すぐに地域から採れるわけではありません。ただ、工場の仕事を細かく見ていくと、検品や梱包、仕分け、簡単な組立など、比較的短い時間で覚えられる作業もあるはずです。
そうした作業を整理して切り出し、タイミーなどのスポットワークで、まずは数時間だけ関わってもらう。工場の中を実際に見て、働く人と話してみる。そのうえで「ここで働いてみたい」と思った人が、パートや正社員につながっていく。スポットワークを人手の穴埋めではなく、会社を知ってもらう入口として使えないか、と考えています。
もちろん、作業の切り出し方や安全面の教育など、受け入れる側の準備は必要です。それでも、求人を出して待つだけの採用から、地域の人に一度中を見てもらう採用へ。そこに、川口ならではの道があるように思います。
地の利を活かした人材戦略へ
八尾の強みは、工場どうしの近さと、後継ぎどうしのつながり、そして行政と一緒に仕事をする関係でした。川口の条件は、八尾とは違います。東京という強い引力がすぐ隣にあり、その代わりに人がたくさん住んでいる。
八尾をそのまま真似するのではなく、川口の地の利から人材戦略を考える。賃金ではなく仕事の中身で選ばれ、近所の人に知られ、気軽に一度関わってもらえる町工場のまち。八尾で受け取った問いへの、今の時点での私の答えです。これから地元の経営者の方々と一緒に、ひとつずつ確かめていきたいと思います。
おわりに
今回の滞在は、4日間の会期のうち1.5日ほど。トークセッションと、自転車でめぐった数社の訪問だけで、工場見学やワークショップには参加できませんでした。このレポートに書けたのは、FactorISMのほんの一部にすぎません。
それでも、短い時間の中で受け取った問いは、川口に持ち帰るには十分すぎるほどでした。来年はもっと準備をして、工場の中にも足を運び、今回確かめきれなかったことを見に行きたいと思います。
出典
出典:製造業の数値は経済構造実態調査(製造業事業所調査、2023年6月1日現在、個人経営を除く全事業所。製造品出荷額等は2022年1〜12月の実績)。川口市は埼玉県の公表資料、八尾市は八尾市「大阪府下市町村別統計表」(八尾市の調査結果ページ)。人口は総務省 住民基本台帳人口(2025年1月1日現在、生活ガイド.com掲載:川口市、八尾市)。最低賃金は埼玉県、大阪府(大阪地方最低賃金審議会答申)、東京都(労働政策研究・研修機構)。
東京との差額(84円)、1事業所あたりの従業者・出荷額、出荷額の倍率(約1.7倍)は、上記の出典をもとに筆者が算出。