ケース07外国籍の社員:仕事の「伝わり方」は、どこですれ違うのか

※冒頭のエピソードは、公的な統計や調査をもとに組み立てた架空の人物・会社の話です。実在の企業や個人をモデルにしたものではありません。引用した数字の出典は、記事の最後にまとめています。
※この連載でいう「ものづくり中小企業」は、中小企業基本法で中小企業とされる製造業の会社(資本金3億円以下または従業員300人以下)を指します。なかでも、従業員が数十人〜100人ほどの会社を主に想定しています。
「わかった?」「はい」

Aさん(仮名・29歳)は、海外から来日し、従業員40人ほどの樹脂成形の会社で働いています。日本で働いて5年目。作業は正確で、成形機の扱いにも慣れてきました。
ただ、気になることがあります。忙しいとき、リーダーは「これ、いい感じにしといて」「なるはやで」と早口で言います。意味がよくわからないときもありますが、何度も聞き返すのは失礼かもしれないと思い、「はい」と答えてしまいます。その結果、やり直しになることが、ときどきあります。
リーダーの側も、「はい」と返ってきたので伝わったと思っています。どちらかが悪いわけではありません。
ある日、Aさんはふと思います。「仕事は好き。でも、本当に伝わっているのか、ときどき不安になる。」
調べてみると:伝え方は、手順として身につけられる

外国籍の人に伝わりやすい話し方については、国の手引きがあります。出入国在留管理庁と文化庁は、2020年8月に「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」を策定しました。2022年10月には、話し言葉のポイントも取りまとめられています。
「やさしい日本語」とは、「難しい言葉を言い換えるなど、相手に配慮した分かりやすい日本語」のことです。話し言葉のポイントには、「短くはっきり言い切る」「相手が理解できる言葉に言い換える」「反応を見る」などが挙げられています。
つまり、伝わり方のすれ違いは、受け取る側の日本語力だけでなく、伝える側の工夫でも小さくできると考えられます。この工夫は、日本人の若手や新人に対しても役に立つ可能性があります。
データ:外国人労働者は増加、産業別では製造業が最多

厚生労働省によると、2025年10月末の外国人労働者数は257万1,037人で、前の年より26万8,450人増えました。外国人を雇用する事業所は37万1,215所です。
産業別にみると、「製造業」が最も多く、全体の24.7%を占めています。また、外国人を雇用する事業所のうち、30人未満の規模の事業所が63.1%と最も多くなっています。
在留資格別では、「専門的・技術的分野の在留資格」が33.7%、「身分に基づく在留資格」が25.1%、「技能実習」が19.4%です。なお、技能実習に代わる「育成就労」の制度が、2027年4月1日から始まる予定です。
外国籍の社員と一緒に働くことは、一部の会社だけでなく、多くのものづくりの現場の日常になりつつあると考えられます。
で、どうしたらいいのか

伝わり方のすれ違いは、本人の日本語力だけでなく、伝え方と確かめ方の仕組みでも小さくできると考えられます。ものづくり中小企業で打てる手として、次の3つが考えられます。
① 指示の言葉を見直す

現場でよく使う言い回しには、日本語を母語としない人には意味がつかみにくいものもあります。「何を・どれだけ・いつまでに」を短く言い切ることが考えられます。
- あいまいな言葉を、数や時刻に言い換える
- 一つの文に一つの指示だけを入れる
- よく使う指示は、言い換えの例を現場で共有しておく
② やって見せてもらう

「はい」は、理解したという意味だけでなく、「聞いています」という相づちの場合もあります。理解できたかどうかは、言葉より動きで確かめる方が確実だと考えられます。
- 最初の1個を、一緒にやってみる
- 手順を本人の言葉で説明してもらう
- 間違いやすいところは、実物や写真で示す
③ 聞ける相手と場をつくる

聞き返すことをためらう理由には、「失礼かもしれない」という遠慮がある場合もあります。「聞いてもいい」と思える相手と場を、会社の側から用意することが考えられます。
- 困ったときにまず聞く、相談役の先輩を決める
- 安全や手順の掲示を、ふりがなや写真で見直す
- 聞き返されたときは「聞いてくれてありがとう」と返す
まずは①から
3つを一度に始めなくてもよいと考えられます。今日の指示から言い換えられる①は、比較的手軽に始めやすい一歩です。
伝え方の工夫は、外国籍の社員だけのためのものではありません。短く、具体的に、動きで確かめる伝え方は、新人や若手を含めた職場全体の伝わり方を整えることにもつながると考えられます。
ハーマスの考え方とご提案

合同会社ハーマスでは、仕事の伝わりにくさを、本人の日本語力だけでなく、会社の仕組みで支えられる課題として捉えています。どんな工夫が合うかは、会社の規模や仕事の中身によって変わります。そのため、決まった型を当てはめるのではなく、社長と現場の双方が納得できるやり方を一緒に探していくことを大切にしています。
このケースのような場合、たとえば次のようなご提案をしています。
- 現場の指示や掲示の言葉を、一緒に見直す
- やさしい日本語のアンケートで、困りごとを個人が特定されない形で見えるようにする
- 国家資格キャリアコンサルタントとして、働き方の見通しについての面談を行う
絵にかいた餅にせず、時には現場に飛び込んで本質を追求し、できたらいいねではなく実際に変化を起こすこと。それを信条に、現場に入って伴走しています。
ものづくり人事ラボでは、こうした「よくある悩み」を、年代や立場を変えて取り上げていきます。