HOME > ものづくり人事ラボ > 組織・職場づくり

ケース04現場の上司:なぜ「注意できない」職場が生まれるのか

※冒頭のエピソードは、公的な統計や調査をもとに組み立てた架空の人物・会社の話です。実在の企業や個人をモデルにしたものではありません。引用した数字の出典は、記事の最後にまとめています。

※この連載でいう「ものづくり中小企業」は、中小企業基本法で中小企業とされる製造業の会社(資本金3億円以下または従業員300人以下)を指します。なかでも、従業員が数十人〜100人ほどの会社を主に想定しています。

言いかけて、飲み込んだ言葉

注意できなくなった現場:以前ならすぐに注意していたが、いまは言いよどむ。パワハラと言われないか不安で、どこまで言っていいかわからず、結局自分でやり直す
タップで拡大

斉藤さん(仮名・45歳)は、従業員50人ほどの樹脂加工の会社で、製造課の係長を務めています。

ある日、部下が保護めがねをつけずに作業しているのに気づきました。以前なら、その場で強く止めていたはずです。ただ最近、別の課で「言い方がきつい」という相談があったと聞きました。どう言えばいいか考えているうちに、声をかけるタイミングを逃してしまいます。それ以来、注意するより自分でやり直すことが増えていきました。

斉藤さんは、ふと思います。「注意しなきゃいけないのはわかってる。でも、どこまで言っていいのか、もうわからない。」

調べてみると:「指導」と「パワハラ」は、同じものではない

パワハラの定義と、適正な指導:パワハラは①優越的な関係を背景とした言動、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの、③労働者の就業環境が害されるもの、の3つをすべて満たすもの。業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導はパワハラに該当しない
タップで拡大

2022年4月から、中小企業でもパワーハラスメントを防ぐための措置が義務になりました。職場でハラスメントを防ぐことは、働く人を守るうえで欠かせません。

一方で、厚生労働省は、パワハラを次の3つの要素をすべて満たすものとしています。

  • 優越的な関係を背景とした言動であって
  • 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
  • 労働者の就業環境が害されるもの

そのうえで、次のようにも示しています。

「客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。」

つまり、パワハラを防ぐことと、必要な指導をすることは、両立できるものと考えられます。斉藤さんが迷っているのは、指導そのものではなく、その「線引き」が職場で共有されていないことにあるのかもしれません。

データ:「判断が難しい」が最大の課題

「判断が難しい」が最大の課題:ハラスメント対策を進める上での課題(企業・複数回答)は、ハラスメントかどうかの判断が難しい59.6%、管理職の意識が低い・理解不足23.8%、発生状況を把握することが困難23.8%、一般社員等の意識が低い・理解不足21.5%、対応の際のプライバシーの確保が難しい21.5%
タップで拡大

厚生労働省の調査では、ハラスメントの予防・解決に取り組む企業が挙げた課題のうち、「ハラスメントかどうかの判断が難しい」が59.6%で最も多くなっています。

同じ調査で、働く人のうち過去3年間にパワハラを受けたと答えた人は19.3%でした。ハラスメントを防ぐ取組が必要であることは、変わりありません。

一方で、会社の側も「どこからがハラスメントなのか」に悩んでいることがわかります。会社として線引きを示せていないと、現場の上司は一人で迷うことになりやすいと考えられます。

で、どうしたらいいのか

指導を取り戻す3つの手当て:①線引きを共有する②行為に向けて伝える③相談の窓口をつくる。まずは①から
タップで拡大

注意できない職場は、上司の性格や勇気の問題だけでなく、指導とハラスメントの線引きが職場で共有されていないことにも一因があると考えられます。ものづくり中小企業で打てる手として、次の3つが考えられます。

① 線引きを共有する

① 線引きを共有する:「これ言ったらパワハラかな…」とあいまいなままにせず、「指導はしていい。こういう言い方はしない」と全員で確認する
タップで拡大

「どこまで言っていいか」があいまいなままだと、上司は指導そのものをためらいやすくなります。職場の具体的な場面をもとに、線引きを全員で確認することが考えられます。

  • 安全や品質に関わる場面では、その場で止めてよいと確認する
  • 人格を否定する言葉や、大勢の前で責めることはしないと決める
  • 研修や話し合いで、厚生労働省の示す定義を全員で知る

② 行為に向けて伝える

② 行為に向けて伝える:「なんでいつもこうなんだ」という人に向けた言葉ではなく、「この寸法がずれている。次は2回測ろう」と行為に向けた言葉で伝える
タップで拡大

同じ注意でも、人に向けた言葉と、行為に向けた言葉では、受け取られ方が変わる傾向にあります。何を・なぜ・どう直すかを一度に伝えることが考えられます。

  • 「あなたは」ではなく「この作業は」を主語にする
  • なぜ直す必要があるのか、理由を添える
  • 次にどうすればいいかを、具体的な行動で伝える

③ 相談の窓口をつくる

③ 相談の窓口をつくる:担当者を決めて受ける側も指導する側も相談できるようにする、日時と内容を記録する、社内で言いにくければ第三者を相談先に入れる
タップで拡大

ハラスメントの相談窓口は、指導を受ける側のためだけのものではありません。指導する側が「この伝え方で大丈夫か」と相談できる場があると、一人で迷うことが減る可能性があります。

  • 相談を受ける担当者を決め、指導する側も相談できると伝える
  • 注意した日時と内容を、簡単に記録しておく
  • 社内で言いにくい場合は、外部の相談先も用意する

まずは①から

3つを一度に始めなくてもよいと考えられます。職場の話し合いから始められる①は、比較的手軽に始めやすい一歩です。

指導が止まると、安全も品質も、人の育成も止まりやすくなります。ハラスメントを防ぐことと、必要な指導を続けることを、両方とも会社の仕組みとして支えることが大切だと考えられます。

ハーマスの考え方とご提案

ハーマスの考え方とご提案:注意できない職場は上司の性格だけでなく会社の仕組みで支えられる課題。①指導とパワハラの線引きの整理②指導する側とされる側の声を見える形に③外部の相談先として双方の話を聞く
タップで拡大

合同会社ハーマスでは、注意できない職場を、上司の性格だけでなく、会社の仕組みで支えられる課題として捉えています。どんな線引きが合うかは、会社の規模や仕事の中身によって変わります。そのため、決まった型を当てはめるのではなく、社長と現場の双方が納得できるやり方を一緒に探していくことを大切にしています。

このケースのような場合、たとえば次のようなご提案をしています。

  • 指導とパワハラの線引きを、職場の言葉で一緒に整理する
  • アンケートで、指導する側とされる側の声を、個人が特定されない形で見えるようにする
  • 国家資格キャリアコンサルタントとして、外部の相談先となり双方の話を聞く

絵にかいた餅にせず、時には現場に飛び込んで本質を追求し、できたらいいねではなく実際に変化を起こすこと。それを信条に、現場に入って伴走しています。

ものづくり人事ラボでは、こうした「よくある悩み」を、年代や立場を変えて取り上げていきます。

出典

関連する記事