ケース02工場長・社長:生産は順調なのに、なぜ職場に活気がないのか

※冒頭のエピソードは、公的な統計や調査をもとに組み立てた架空の人物・会社の話です。実在の企業や個人をモデルにしたものではありません。引用した数字の出典は、記事の最後にまとめています。
※この連載でいう「ものづくり中小企業」は、中小企業基本法で中小企業とされる製造業の会社(資本金3億円以下または従業員300人以下)を指します。なかでも、従業員が数十人〜100人ほどの会社を主に想定しています。
数字は悪くないのに

木村さん(仮名・52歳)は、従業員70人ほどの金属部品メーカーで工場長を務めています。受注は好調で、不良率も低く、納期も守れています。
ただ、最近気になることがあります。朝礼の声が小さく、以前は出ていた改善の提案も出なくなりました。去年は若手が2人、続けて辞めています。社長と相談してバーベキューを開いてみましたが、その日は楽しくても、翌日の職場は元の静けさに戻りました。
そもそも、職場に活気は必要なのか。仕事が回っているなら、それでよいのではないか。でも、このままでいいとも思えない。木村さんは、ふと思います。「数字は悪くない。でも、この静けさは放っておいていいのだろうか。」
調べてみると:「活気」の正体は「働きがい」

「活気」はあいまいな言葉です。そこで、きちんと調べられている「働きがい」に置き換えてみます。
厚生労働省の「令和元年版 労働経済の分析」は、「働きがい」を「ワーク・エンゲイジメント」という考え方で測り、仕事の成果との関係を分析しています。その概要には、次のようにあります。
「「働きがい」の向上により、定着率や離職率に加え、働く方のストレス・疲労感、労働生産性、顧客満足度等が改善する可能性あり。」
つまり、職場の活気は「あった方がよいもの」というだけでなく、定着や生産性にも関わる可能性があると考えられます。
また、同じ概要では、「働きがい」を高める方法として、「コミュニケーションの円滑化、労働時間の短縮や働き方の柔軟化、裁量権の拡大、将来のキャリア展望の明確化など」が有効な可能性があるとしています。取組例には、上司が毎日積極的に挨拶することや、上司と部下の1対1の対話を月に1回以上行うことも挙げられています。
木村さんの会社のバーベキューが続かなかったのは、行事そのものが悪いからではありません。必要なのは一日の盛り上がりよりも、毎日の仕事のなかにある「働きがい」だと考えられます。
データ:職場の空気は、定着に表れる

職場の空気そのものを測った公的な統計は多くありません。ただ、その影響は「定着」という形で数字に表れています。
厚生労働省の調査では、若年正社員の定着のために事業所が行っている対策で、最も多いのは「職場での意思疎通の向上」の59.7%でした。一方、若い人が初めて勤めた会社を辞めた理由では、「人間関係がよくなかった」が26.4%です。
また、別の調査では、人材育成に問題があるとした事業所の51.6%が「人材を育成しても辞めてしまう」を悩みに挙げています。
生産の数字が順調でも、職場の空気が重い状態が続くと、時間をかけて「人が定着しない」という形で表れてくる可能性があります。
で、どうしたらいいのか

職場の活気のなさは、社員の意欲だけでなく、働きがいを生む仕組みが日々の仕事のなかにあるかどうかにも一因があると考えられます。ものづくり中小企業で打てる手として、次の3つが考えられます。
① まず状態を測る

「なんとなく暗い」という感覚のままでは、どこから手を打つべきかが見えにくい傾向にあります。短いアンケートで、職場の状態を言葉と数字にすることが考えられます。
- この職場で働くことに、やりがいを感じるか
- 困ったときに、相談できる相手がいるか
- この先の自分の働き方が、思い描けるか
2028年4月からは、50人未満の事業場でもストレスチェックが義務になります。こうした測る仕組みも、職場の状態をつかむ手がかりとして生かすことができると考えられます。
② 日々の対話を増やす

労働経済の分析でも、コミュニケーションの円滑化が働きがいの向上に有効な可能性があるとされています。年に一度の行事よりも、毎日の小さなやりとりを増やす方法が考えられます。
- 毎日、上司から先に、名前を呼んで挨拶する
- 月に1回、上司と部下で15〜30分の1対1の対話をする
- 朝礼で、誰かの仕事への「ありがとう」を具体的に伝える
③ 任せて、先を見せる

裁量権の拡大や、将来のキャリア展望の明確化も、働きがいの向上に有効な可能性があるとされています。自分で考える余地と、この先の見通しをつくることが考えられます。
- 改善のやり方は、現場に任せてみる
- 任せた結果は、一緒に振り返る
- この先、どんな仕事を任せたいかを伝える
まずは①から
3つを一度に始めなくてもよいと考えられます。短いアンケートから始められる①は、比較的手軽に始めやすい一歩です。測ることで、②と③のどこから手を打つべきかも見えてきます。
職場の活気は、行事で一時的に生まれるものではなく、日々の仕事のなかで、働きがいが積み重なった結果として生まれると考えられます。
ハーマスの考え方とご提案

合同会社ハーマスでは、職場の活気のなさを、社員の意欲だけでなく、会社の仕組みで支えられる課題として捉えています。どこから手を打つべきかは、会社の規模や仕事の中身によって変わります。そのため、決まった型を当てはめるのではなく、社長と現場の双方が納得できるやり方を一緒に探していくことを大切にしています。
このケースのような場合、たとえば次のようなご提案をしています。
- 短いアンケートで、職場の状態を個人が特定されない形で見えるようにする
- 結果をもとに、どこから手を打つかを社長や工場長と一緒に決める
- 国家資格キャリアコンサルタントとして、社外の立場から社員との対話の場をつくる
絵にかいた餅にせず、時には現場に飛び込んで本質を追求し、できたらいいねではなく実際に変化を起こすこと。それを信条に、現場に入って伴走しています。
ものづくり人事ラボでは、こうした「よくある悩み」を、年代や立場を変えて取り上げていきます。
出典
- 厚生労働省「令和元年版 労働経済の分析」骨子
- 厚生労働省「令和5年若年者雇用実態調査の概況」(表8・表17)
- 厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査」結果の概要(図35・図36)
- 徳島労働局「ストレスチェック制度」(改正労働安全衛生法、施行は令和10年4月1日)
- 中小企業庁「中小企業・小規模企業者の定義」