FactorISM 2026 参加レポート第一部:会場とupCRAFT

→ イベント公式サイト:FactorISM 2026〜アトツギたちの文化祭〜
はじめに
2026年10月22日、大阪府八尾市の「みせるばやお」で開幕した、地域一体型オープンファクトリー「FactorISM 2026〜アトツギたちの文化祭〜」の初日に参加してきました。
私は埼玉県川口市の生まれで、今は地元を中心に、中小製造業の組織づくりや人材の支援に取り組んでいます。川口と八尾は、どちらも製造業の事業所が1,000を超える「町工場のまち」です。事業所の数は川口(約1,700)のほうが八尾(約1,300)より多いのに、製造品出荷額は八尾が川口のおよそ1.7倍。同じ型のまちで、何が違うのか。工場をひらくと、そこで働く人や地域に何が起きるのか。それを自分の目で確かめたくて、新幹線に乗りました。
この日はトークセッションが4本。町工場の経営者、3市の市長、観光の専門家が、それぞれの立場から「こうばをひらく意味」を語っていました。印象に残った言葉を中心に、前編(第一部)と後編(第二部)に分けてまとめます。
なお、今回の滞在は4日間の会期のうち1.5日ほどと短く、工場見学やワークショップには参加できませんでした。ここに書くのは、FactorISMのほんの一部です。
FactorISMとは
FactorISMは、「こうばはまちのエンターテインメント」を合言葉に、普段は一般公開しない町工場を一斉にひらく、地域一体型のオープンファクトリーです。工場見学やものづくりのワークショップを、4日間にわたって各地の工場で同時に開きます。
始まりは2020年、5市町の35社。今年は大阪府内を中心に、三重・愛知・石川・東京まで広がり、18市町の107社が参加しています。拠点となる「みせるばやお」は、八尾市の中小企業が共同で人材育成や商品開発に取り組む場として2018年に生まれました。
印象的だったのは、4日間のイベントだけで終わらせていないことです。商業施設での展示販売、ワークショップ、学校や鉄道会社とのコラボなど、1年を通じて「365日こうばをひらく」活動を続けています。
会場の様子
近鉄八尾駅前の商業施設8階。エレベーターを降りると、参加企業の名前を入れた提灯が天井いっぱいに吊るされ、工場というより「祭りの会場」に近い空気でした。ひとつひとつの提灯が1社であり、それが並んでいることそのものが「群で見せる」というメッセージになっています。

会場には、町工場の端材とアーティストの感性を掛け合わせた作品が並んでいました。工場にとっては役目を終えた「端材」が、見方を変えるだけで人の足を止めるものになる。そのこと自体が、このイベントの核心を表しているように感じました。

ゲーム会社とのコラボで生まれた、実寸大のロックバスター。四杢畷市の企業がアルミの無垢材からミクロン単位で削り出し、大阪市生野区の企業がアルマイト処理で「究極の青」に染めたものです。普段は部品や試作品として人目に触れない技術も、誰もが知るものを形にすると「こんなことができるのか」と一瞬で伝わります。工場の外にいる人に技術を翻訳する、よい例だと思いました。

オープニングを飾ったのは、関係者で結成されたバンドの演奏。企業の合同展示会というより、たしかに「アトツギたちの文化祭」でした。
upCRAFT OSAKA:「こうばを魅せる」の先にある変革
最初のセッションは、大阪府の事業として町工場とスタートアップの協業を後押しする「upCRAFT OSAKA」。FactorISM実行委員長の友安啓則さん(友安製作所)と、木幡巌さん(木幡計器製作所)が登壇しました。

117年続く圧力計メーカーが、医療とIoTへ
木幡計器製作所は、金物鍛冶の技術から圧力計づくりに転じた創業117年の老舗です。圧力計の基本原理は170年以上ほとんど変わらず、国内の市場規模も限られ、製品で差をつけにくい世界。そこから、研究機関と共同開発した携帯型の呼吸筋力測定器や、既存の圧力計に後付けしてデジタル化するIoTセンサーへと踏み出しています。
象徴的だったのは単価の話です。従来の圧力計が平均4,500円なのに対し、IoTセンサーは約10倍の45,000円、上位機種はさらに約4.5倍の200,000円。同じ「圧力をはかる」技術が、使われ方を変えるだけでここまで価値を変える。ただし木幡さんは「IoTはセンサー、通信、電源、セキュリティの掛け合わせで、1社では絶対にできない」と言い切っていました。連携は手段ではなく前提なのだと思います。
「うちには何もない」と言う社長が、目を輝かせる
友安さんの会社では、自社の工場見学が想定外の人気になったことが、ものづくりの価値に気づくきっかけだったそうです。ただ、1社でひらいても届く範囲は限られる。だからまとまって見せることにした、と。
心に残ったのは、働く人の変化です。毎日のルーティンだった溶接作業を、来場者が「すごい」「かっこいい」と見てくれる。それだけで職人の自己肯定感が格段に上がった、と。
もとは八尾市の職員としてこの取り組みに関わってきた松尾泰貴さんの話も印象的でした。社長を訪ねると、最初はたいてい「うちには何もない」と言う。けれど工場を見せてもらうと、目を輝かせながら語り出す。閉じておくのはもったいない、外にひらけば価値を見いだしてくれる人が出てくる。それが出発点だったそうです。
連携の第一歩は「見て知ること」
一歩を踏み出せない人へのメッセージとして、木幡さんは「まず相手の現場に行くこと」を挙げていました。自身も医療の学会に足を運び、医師にも工場に来てもらうことで、はじめて本当の意味の連携になったそうです。友安さんは「自分たちの価値を自分で語るより、他の人に発見してもらう方がいい」と。自社の当たり前は、外から見ると強みであることが多い。この言葉は、多くの中小企業にそのまま当てはまると感じました。
後編の市長トップ会談と夜の基調講演・トークセッションは、第二部「市長会談と、まちこうばの観光」に続きます。
出典
出典:事業所数・製造品出荷額は経済構造実態調査(製造業事業所調査、2023年6月1日現在、個人経営を除く全事業所。出荷額は2022年実績)。川口市は埼玉県の公表資料、八尾市は八尾市「大阪府下市町村別統計表」。参加企業数・開催日程はFactorISM 2026 プログラムおよびFactorISM公式サイト、参加企業数の推移は当日のトークセッションで投影されたスライド。みせるばやおの設立経緯は近畿経済産業局の紹介記事。木幡計器製作所の創業年数・製品単価など、登壇者の発言に含まれる数値は、upCRAFT OSAKA 2026 vol.3(2026年10月22日)での発言を筆者が聞き取ったもの。グラフィックレコーディングは当日会場に掲示されたもの。